不倫相手に離婚の慰謝料を請求できないとした最高裁判例について
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一般的な請求は「不貞慰謝料」
原告は関東地方に住む男性。1、2審判決によると、2015年に妻と離婚し、その4年前まで妻と不倫関係にあった妻の元同僚を相手取り「不倫が原因で離婚した」として計約500万円の支払いを求めて提訴しました。
報道によりますと、元妻には慰謝料を請求していないとのことです。
一般的には、不貞相手に対して、不貞行為についての慰謝料を請求することが多いですが、本件は、離婚に至ったことに対する慰謝料を請求していました。
1、2審は200万円の賠償認める
この裁判で1、2審は原告男性の訴えを認め、元不倫相手側に約200万円の支払いを命じました。
1審判決は「不貞行為の発覚をきっかけに婚姻関係は悪化し、離婚に至った」と認定したのです。
そのうえで、離婚慰謝料について、消滅時効の起算点である損害を知った時は、「離婚成立時」であるとする別の確立した最高裁判例(71年7月)を引用して、「不貞行為により離婚を余儀なくされて精神的苦痛を被ったと主張する場合、損害は離婚成立時に初めて分かる」と述べ、慰謝料の支払いを命じました。
本件で、原告が不貞についての慰謝料ではなく、離婚に至ったことに関する慰謝料を請求したのは、不貞についての慰謝料が、消滅時効期間(3年)が経過していたためでした。
元不倫相手側が上告
これに対して、元不倫相手が「不倫があったとしても結婚生活が破綻するかどうかは夫婦によって異なる。本件では、第三者に離婚慰謝料を請求することは相当ではない」として、最高裁に上告したのでした。
最高裁判決の詳細
上告審の結果、最高裁判所の判決の詳細は以下のとおりです。
「夫婦の一方は,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができるところ,本件は,夫婦間ではなく,夫婦の一方が,他方と不貞関係にあった第三者に対して,離婚に伴う慰謝料を請求するものである。
夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが,協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても,離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。
したがって,夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。
第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。
以上によれば,夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対して,上記特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。」
今回の最高裁の判断は実務を変えるものではない
前述のとおり、今回の裁判で元夫が、一般的に認められている不倫そのものに対する慰謝料を請求しなかったのは、不倫発覚から3年の時効が過ぎていたためでした。
しかし本件では、不貞解消後、4年間の同居期間がありました。
その後、7か月間の別居期間を置いたあと、夫婦間で離婚の調停をおこない、離婚に至っています。
最高裁は、このような事案で、夫婦が離婚に至ったことについて、不貞の相手方に責任を負わすことはできないという判断をしたにすぎません。
かかる判断は、これまでの実務を変えるものではないといえます。
とはいえ、積極的に離婚させるようなことをした不貞相手に対しては、離婚に至ったことについての慰謝料を請求することは可能です。
どのケースで、どのような慰謝料請求をおこなえるかについては、
協議離婚の条件にも関わってくることですので、早期に専門家から情報収集をしていただくことに不利益はありません。
今回のケースに限らず、離婚の問題には要素が複数存在し、争点や解決方法も一つではないため、まずはお気軽にご相談ください。

弁護士法人フロントロー法律事務所

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