高所得者の離婚における婚姻費用・財産分与の注意点

高所得者の離婚における婚姻費用・財産分与の注意点

離婚時に伴う財産分与について

離婚に伴う財産分与は,婚姻期間中に夫婦が協力して形成した財産を離婚時に分けるものです。その財産の名義が夫婦のいずれであるかにかかわらず,財産分与の対象となります。

財産分与は、婚姻期間中に夫婦が協力して形成した財産を離婚時に分ける制度ですので、分与の割合については、財産形成、維持への寄与度によって割合を決めます。妻が収入を得ていなくても、専業主婦として夫の仕事に協力したとして、財産分与の割合を2分の1とすることが通常です。

高額所得者の離婚における注意点

会社経営者、医者、弁護士、会計士、投資家など、夫婦の一方が高額所得者である場合の離婚においては、相手方配偶者から思いもよらない額の金銭請求をされることがあります。
高額所得者が損をせずに離婚するためには、どのようなことに注意したら良いのでしょうか?

今回は、高額所得者が離婚する際に気をつけておきたい重要なポイントについて、弁護士が解説します。

1、高額な婚姻費用を請求される可能性に留意

(1)婚姻費用とは

高額所得者が離婚する場合には、配偶者から高額な婚姻費用を請求される可能性があります。
婚姻費用とは、夫婦が分担すべき生活費のことです。
別居していたとしても結婚している間は、夫婦が同じ生活レベルになるよう婚姻費用の支払が求められます。

そこで、離婚前に別居した場合などには、高額な収入のある側は、相手(収入の無い側、少ない側)に生活費を支払わなければなりません。

婚姻費用については、通常、夫婦それぞれの収入と子どもの人数、年齢、監護状況によって異なります。
婚姻費用を支払う側の収入が高ければ高いほど、婚姻費用は高額になりますし、また支払いを受ける側の収入が低ければ低いほど、やはり婚姻費用は高額になります。

基本的な婚姻費用の金額は、家庭裁判所が定める婚姻費用の算定表にまとまっています。

(2)高額所得者の婚姻費用計算方法

高額所得者の場合、婚姻費用の計算の方法に特殊性があります。

上記の裁判所の婚姻費用の算定表を見るとわかりますが、この表によると、婚姻費用の金額は、支払い義務者が給与所得者(給与収入)の場合に年収2000万円、自営業者(事業収入)の場合に1409万円までの分しか書かれていません。
そこで、この所得を超える高額所得者の場合に、婚姻費用をどのようにして計算すべきかが問題となります。

この場合、いくつかの考え方があります。

1つは、上記の給与所得2000万円、事業所得1409万円を上限とする考え方です。

それ以上の生活費は、通常不要だろうという考えに基づきます。この考え方は、支払側にとって有利になりやすいです。

2つ目の考え方は、婚姻費用を計算する際の「基礎収入割合(基礎収入率)」を減少させる方法です。

基礎収入割合は、公租公課、職業費、特別経費などにより年収がそのまま生活費に回せるわけではないため、年収に応じて類型的に生活費に回せる割合を示したものです。

婚姻費用を計算するときには、支払い義務者の収入に「基礎収入割合」という数字をかけ算して、それを各世帯に割り振っていくことにより、算出します。
そこで、基礎収入割合が小さくなると、全体的な婚姻費用の金額も下がります。高額所得になってくると、基礎収入割合が小さくなるという考え方があるため、仮に算定表の基準を上限としない場合であっても、婚姻費用を減額することができます。

2、養育費についての問題

(1)養育費の計算方法

離婚の際、相手が未成年の子どもをひきとって監護権者になる場合には、養育費を支払わなければなりません。
養育費についても、婚姻費用と同じ問題があります。
家庭裁判所の定める養育費算定表には、婚姻費用と同じ上限があるからです。

この場合の解決方法も、やはり婚姻費用のケースと同様になります。
すなわち、養育費の算定表の金額を上限とするか、基礎収入割合を小さくすることによって調整する方法が一般的です。

(2)養育費をいつまで支払うのか、学費の負担はどうするか

また、養育費の場合、子どもがいくつになるまで支払うのか、子どもの学費の負担などの問題もあります。養育費の支払期間については、基本的に子どもが20歳になる月までです。

ただし、子どもが大学に行く前提であれば、22歳になる年か翌年の3月まで(大学卒業時まで)とすることもあります。
また、高校や大学で私立に通う場合などには、養育費の一環として学費を支払う約束をすることなどもあります。

月々の支払いを超える、学費や習い事等の費用については、基本的に夫婦が話し合って決める事項となりますので、お互いが納得する範囲で支払いの約束をしましょう。

(3)将来減収が発生したときの対処方法

離婚後、減収が発生したときの対処方法も知っておく必要があります。
養育費は、子どもが20歳になるまで、いつでも決め直すことができます。
離婚後、予測していなかった事情や突発的な要因によって減収が発生し、高額な養育費を支払うことができなくなった場合には、養育費減額調停をすることができます。
養育費減額調停をすると、そのときの事情や夫婦それぞれの年収によって、養育費の金額を決め直すことができます。

離婚後会社経営がうまくいかなくなったときなど、万一の場合に備えて押さえておきましょう。

3、財産分与についての問題

(1)財産分与の基本

高額所得者の場合、財産分与にも注意が必要です。
財産分与とは、夫婦の共有財産を分け合う手続きのことです。
婚姻中は、夫婦の財産が共有となるので、離婚に際してお互いの部分に分ける必要があるのです。この種類の財産分与のことを、清算的財産分与と言います。

財産分与の対象財産になるのは、夫婦の名義の預貯金や生命保険、不動産や株式、ゴルフ会員権や積立金、現金などの資産です。
ただし、夫婦のどちらかが婚姻前から持っていた財産や、夫婦のどちらかが実家から得た財産(相続等)などは、特有財産となりますので、財産分与対象になりません。

(2)高額所得者の場合の財産分与割合

また、財産分与割合についても、注意が必要です。
財産分与割合とは、夫婦それぞれが、財産をどのくらいの割合で受けとるべきか、ということです。

一般的な事案では、財産分与割合は、夫婦それぞれが2分の1ずつとなります。
夫婦の一方が専業主婦であったり、夫婦の収入に格差があったりしても、そのようなことは考慮されずに半分ずつになります。

ただし、夫婦の財産が、特別の資質や能力などによって得られたものである場合には、他方の配偶者による財産形成に対する寄与度は低く、財産分与割合が修正されることがあります。その場合、寄与度の低い配偶者への財産分与割合が小さくなります。

たとえば、医療法人を経営する夫との財産分与が問題となった大阪高判平成26年3月13日判タ1411巻177頁は、
「原則として,夫婦の寄与割合は各2分の1と解するのが相当であるが,例えば,《1》夫婦の一方が,スポーツ選手などのように,特殊な技能によって多額の収入を得る時期もあるが,加齢によって一定の時期以降は同一の職業遂行や高額な収入を維持し得なくなり,通常の労働者と比べて厳しい経済生活を余儀なくされるおそれのある職業に就いている場合など,(中略),《2》高額な収入の基礎となる特殊な技能が,婚姻届出前の本人の個人的な努力によっても形成されて,婚姻後もその才能や労力によって多額の財産が形成されたような場合など(中略)」は例外に当たるとし、「医師の資格を獲得するまでの勉学等について婚姻届出前から個人的な努力をしてきたことや,医師の資格を有し,婚姻後にこれを活用し多くの労力を費やして高額の収入を得ていることを考慮して,控訴人の寄与割合を6割,被控訴人の寄与割合を4割とすることは合理性を有する」
などとしています。

このように必ずしも相手方配偶者に2分の1の割合で財産分与をしなくても良いので、相手が財産分与の半額を請求してきても、それに応じなければならないということではありません。

(3)法人の財産と財産分与

財産分与の対象は、基本的に夫婦の個人資産です。
法人は、夫婦とは独立した人格を持っており、独立した財産を持っているので、法人の財産は、基本的に財産分与の対象になりません。
そこで、法人として多額の資産を持っている場合に離婚をしても、必ずしも相手に多くの財産分与をしなければならない、ということにはなりません。

ただし、法人と経営者個人を一体として評価できるような場合には、法人の財産が財産分与の対象になってしまうこともあります。
実質的には個人事業と変わらない1人会社である場合などです。

また、同族会社で、創業以来妻が会社で働き続けてきており、会社資産形成に対する妻による貢献度が高い場合などにも、法人財産の妻への財産分与が認められるケースがあります。

法人経営者が離婚する場合には、財産分与の方法について、特に注意を払う必要がありますし、相手の請求に妥当性があるかどうか、しっかり検討しなければなりません。

4、慰謝料についての問題

高額所得者の場合、慰謝料も高額になることがあるので、注意が必要です。

慰謝料は、婚姻関係を破綻させた有責配偶者が、相手に対して支払わなければならない損害賠償金です。離婚するからと言っていつでも慰謝料が発生するわけではなく、どちらかの配偶者に何らかの有責性がある場合のみに、慰謝料が発生します。

自分から離婚を切り出したからと言って慰謝料支払い義務が発生する、というわけでもないので、誤解しないようにしましょう。

慰謝料が発生するのは、不貞(不倫)やDV、モラハラや悪意の遺棄(生活費不払い)などがあったケースのみです。慰謝料の支払義務者が高額所得者の場合には1000万円を超える慰謝料を請求されるケースもあります。

しかし、たとえば、不貞の慰謝料の判決の相場は、一般的に100~300万円程度であり、高額所得者であるからといって、その額が大幅に変わることはありません。
慰謝料の支払金額は、基本的には相手との話し合いによって決まるので、交渉次第で減額することも十分可能です。

5、高額所得者が有利に離婚したいなら、弁護士へご相談ください

以上のように、高額所得者が離婚するときに損をしないためには、通常のケース以上に法的な知識と慎重な対応が必要です。

高所得者といっても状況は様々ですから、ご家庭ごとに最適な解決方法・取るべき手続きは異なります。法的知識がないままお一人で対応すると、財産分与額が不当に高額になる可能性もあり、大きな不利益を受けるおそれも高くなります。

また、会社経営者にとっては、自社株をどう守るべきかという大きな問題があります。

このような複雑な問題を解決するには、弁護士が必要です。

当事務所は男性・女性の高額所得者の方の離婚問題の解決を得意としており、離婚問題や慰謝料問題に豊富な経験と実績を有しています。 お気軽にお問合せ下さい。

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